魚類を対象として、耳石を用いた生活史や生活史関連形質の種内変異研究を進めています

キーワード: 種内変異・地理的変異・耳石・微量元素比・回遊履歴・生活史変異
Keywords: marine biology, intraspecific variation, geographic variation, otolith, microchemistry, migration history, life-history variation

★主な研究対象種と研究手法について★

マイワシ(Sardinops melanostictus)やニシン(Clupea pallasii)などの海水魚、アユ(Plecoglossus altivelis altivelis)やリュウキュウアユ(Plecoglossus altivelis ryukyuensis)などの通し回遊魚を対象としてきました。現在は日本国内に分布する淡水魚のキタノメダカ(Oryzias sakaizumii)およびミナミメダカ(O. latipes)を対象として研究を進めています。対象魚種は今後も海水・淡水問わず拡大予定です。

魚類の内耳には、耳石(ear stone/otolith)と呼ばれる、主に聴覚と平衡感覚に関与する炭酸カルシウムの結晶が存在します。耳石には、サイズが大きい方から順に、扁平石(sagitta)、星状石(asteriscus) 、礫石(lapillus)の3種類があり、それぞれが対をなしています。特に扁平石には、個体ごとの成長履歴や経験した環境の履歴が時系列に沿って保存されています。そこで、耳石扁平石を用いて日輪解析や微量元素分析を行うことにより、生活史や成長速度、体サイズの種内変異を調べています。今後は、耳石の安定同位体比分析や飼育実験、ゲノミクスの手法を取り入れる予定です。


★公表済みの直近の研究成果★

【成長速度や体サイズの地理的変異(緯度クライン)とその海域間変異】

昆虫や爬虫類などの外温動物では、種内において高緯度に分布する個体ほど、成長速度が低い、成長期間が長い、体サイズが大きい、などの緯度に沿った生活史関連形質の連続的な変異、すなわち緯度クラインが認められます。これまで、生活史関連形質の緯度クラインの傾向は種内で一定という認識が一般的でした。しかし、日本全国に分布する両側回遊魚アユについて海洋生活期間の成長速度、成長期間および体サイズの地理的変異を調べ たところ、成長速度は高緯度ほど低く、成長期間は高緯度ほど長い緯度クラインが認められたのに対して、体サイズの緯度クラインは海域間で傾向が逆転することが明らかになりました。

Reference: Murase et al. 2019 Mar Ecol Prog Ser 624: 143-154


【両側回遊の不安定性】

アユやニホンウナギ、サケ科魚類などは、一生の間に海と川を行き来する通し回遊魚です。これまで、通し回遊魚は全ての個体が海ー川間を移動すると考えられてきましたが、耳石微量元素比の普及に伴い、通し回遊魚の中でも一生を海、あるいは川で過ごす個体がいることが明らかとなってきました。アユは通し回遊魚の中でも両側回遊性、すなわち、川で孵化し、海で仔稚魚期を過ごした後に、川に遡上してさらに成長し、川で産卵をする生活史を示します。今回、アユと亜種リュウキュウアユについて、耳石のSr/Ca比分析により、経験塩分履歴を調べたところ、汽水域で海洋生活期間を過ごす個体、さらには、河川遡上後も断続的に汽水域に来遊する個体の存在が明らかになりました。

References: Murase & Iguchi 2019 J Fish Biol 95: 1391-1398 & Murase & Iguchi 2020 Estuar Coast Shelf Sci 245: 106984 


【仔稚魚期の成長が良い個体が河川の大規模攪乱を生き残る】

両側回遊魚であるアユは、河川遡上後に集中豪雨等により、河川の大規模な攪乱を経験します。今回、西日本豪雨で甚大な被害を受けた河川を遡上したアユについて、豪雨災害の前と後に採集した個体の耳石日輪解析により、どのような成長履歴を持つ個体が災害後にも生残していたか調べました。その結果、特に稚魚期の成長が速かった個体が、豪雨災害を生残していたことが明らかとなりました。

Reference: Murase & Iguchi 2021 Fish Manag Ecol DOI: 10.1111/fme.12524 


【耳石扁平石のバテライト化誘導手法の確立】NEW!!

特に養殖魚において、通常、アラゴナイトの炭酸カルシウムの結晶多型で構成された耳石扁平石が、別の結晶多型であるバテライトに相転移する現象が広く知られています。この相転移には、養殖環境下におけるストレスが関与していると考えられているものの、バテライト結晶化を引き起こすメカニズムは未解明でした。この理由として、そもそも人為的にバテライト化を誘導する手法が確立されていなかったことが挙げられます。今回、ストロンチウムを添加した水でミナミメダカ近交系を飼育した結果、縁辺がバテライト結晶化することが明らかになりました。この手法の確立により、バテライト化に関する研究が飛躍的に進むことが期待されます。

Reference: Murase et al. 2023 R Soc Open Sci DOI: https://doi.org/10.1098/rsos.230410


★現在進行中の研究★

【海面水温の上昇が両側回遊魚の生活史に及ぼす影響】2019~

近年、気候変動に伴う海面水温の上昇が生物に及ぼす影響の実態解明は急務です。特に、日本近海においては、太平洋沿岸と比べて日本海側の海面水温の上昇が深刻です。そこで、このような水温の時空間的変動がアユの生活史に及ぼす影響を、実証研究と理論研究により解明しようとしています。

★研究成果の一部は第68回日本生態学会で公表して、英語口頭発表聴衆特別賞を受賞しました。         ○Murase I, Irie T, Iguchi K. "Spatio-temporal variation in life-history traits of an amphidromous fish, ayu: changes in the traits after 19 years" 令和3年3月17-21日


【耳石微量元素比の種内・種間変異の実態解明】2021~

地域個体群によって耳石中の微量元素の組成や濃度がしばしば異なることから、耳石微量元素比は個体群の由来判別に用いられます。しかしながら、耳石微量元素比は、同種の個体間においても大きくばらつくことがあり、遺伝的基盤の関与も指摘されています。そこで、このような耳石微量元素比のばらつきの実態解明を目指して、メダカ属魚類をモデル生物とした共通環境実験に着手しました。


iki.murase [at] gmail.com
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